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おれが予備校で好きだった女の子の話をするから。
彼女とおれが初めてくちづけをかわした無惨な一夜の話をするから。
バカバカしがらずに聞いてくれよなメロス。
白都さんて女の子がおれのクラスにいたんだ。
なにもかもかわいかったんだけど、とくにひざがかわいくってさ。
弱いんだよおれ、女の子のひざに。
女の子のきれいなひざをみるたびおれは「このひざの為に平和でしあわせてな社会を築くぜ」って誓いをあらたにするくらいさ。
そういう平和でしあわせなあんよがかわいいクツはいてぺたぺた歩いてたりするのをみるとおれはもう頭がくらくらして気を失いそうになっちぁうくらいさ。
やっぱりおれは、女の子のクツとして生まれてきたかった真剣に考えるくらいさ。
なんだかわけわかんないだろうけどとにかくそんな理由でおれは白都さんをたぶらかしてたんだ。
イモヅル学館の裏には西神田公園てのがあってさ。
よくそこのベンチに腰掛けて白都さんとおれはたわいない話をしたもんさ。
「それにしても」
「なあに」
「いい天気だね」
「ほんと」
「あつくない?」
「へいき」
「もうちぉっと風があればね」
「うん」
「すずしいんだろうけど」
「うん」
「でも」
「ん?」
「いい天気だね」
「うん」
「まいにちいい天気だといいのにね」
「うん」
「いい天気っていいよね」
「うん」
「もしもあしたも天気がよかったら」
「なあに」
「セックスしようよ」
「ばか」
「ていうのは冗談で」
「なあんだ冗談なの」
「へ?」
「ううんなんでもないの」
「とにかくあしたもいい天気だったら」
「なあに」
「♂らして」
「くすくす」
ころは七月。
そんなふうに白都さんとおれは神さまの祝福をうけて天下むてきのたわいない恋人同士だったんだ。
つたわったかなあメロス。
天下むてきだったんだ。
晴れの日ばかりじぁなくて雨の日も天下むてきだったんだ。
「今日は雨だね」
「うん」
「雨ってやだね晴れるといいのにね」
「うん」
「もしこの雨があがったらさあ」
以下晴れの日と似たようなもの。
へら。
そういうことさ。
ときどきおれは神さまの祝福をうけてないホタホタの相手もしなきぁなんなかったけど。
なにしろおなじ予備校だったから顔をあわさないわけにもいかなくてさ。
おまけにほら、おれって善人だから「おれは白都さんがすきだからおまえなんかいんない」とはいえなくてさ。
仕方なくおれはホタホタの相手もしてたんだけど。
でもホタホタに関してはあくまで人類愛にしかすぎなかったのに対して白都さんについてはもう完ぺきに純愛だったからね。
それはもう月とすっぽんのインモーぐらいの差はあったね。
つまりまとめていうとだねその頃おれは白都さん逢うためにまい日めしをくいただそのためにまい日予備校に通い彼女のひざのために平和でしあわせな社会への誓いをかたくしてたってことさ。
へらへら。
♂
そして七月の終わりのせつない夜の話さ。
土曜日で、おれはしりあいの沖山ってやつとあと白都さんの三人して飲みにいったんだ。
カブキチョーのしぉうもないとこなんだけど。
なにを思ったかその晩はその沖山ってのが絶好調でさ。
パチンコに爆勝したとかで、ぺらぺらぺらぺらしぁべくりながらゴンゴンのんでるんだ。
「いやあああ今朝パチンコ屋でクソしたらさあゴンゴンゴンゴン(のむ音)。今まで出したことないようなバカでっけークソがでてさあ。カンドーしちぁったよカンドー。おっ、こりぁ今日のおれはナニかがちがうぜっていそいで台にもどって打ちはじめたら、すかさずそろってやんのゴン。も、そのあとはバクレツだよバクレツ、やっぱウンがついたんだなあわっはっはっはっは、んなわけだから今夜はおれのオゴリさっみんなじぁんじぁんのんでくれよなおれものむからゴックンゴックンゴッ‥‥‥‥あもうねえやおねさんチュハイおかわりねえええええっわっはっはっはっはっは」
おれがただひとすぢに純愛路線をつき進んでる白都さんの前でなんでこんな下品な話をしなきぁなんないんだよこの男はよお、とかおれはすこしばかりムっとしてたんだけど。
どういうわけだか白都さんがおもしろがっちぁって「もっともっと」とかいってガンガンのましてんの。
沖山がまたバカだから無限にのむわけ。
「っかしこのヤキトリぁうめえなあしゃくしゃく(くう音)。ヤキトリっつえばさあしゃく。おれがまだガキの頃おやじが庭でニワトリのクビ切ってたんだよシァレじぁないけどごんごん。でたいてーのニワトリはクビ切られたら即死すんだけど中には元気のいいのがいてクビ切られてもしぶとくそこら辺のたうつやつがいるわけしゃくり。おれはおやじの目の前でクビ切んのカンサツしてたんだけどゴンゴンゴン特別に威勢のいいのがいて、クビ切られたのに庭ん中かけずりだしちぁったやつがいてさあ、しかもおれのこと追っ掛けてくんのよ、クビがないのにだぜえ?ゴンゴンゴン、フー。おれぁ必死んなって逃げたけど、あんときばかりぁ生きた心地がしなかったね、ゴン‥‥‥‥。けどこのヤキトリっつうなあうめえよなあああしゃくしゃくしゃくゴンゴンゴンゴ‥あもうねえや、おねさんチュハイおかわりねーっあとヤキトリ十本ツイカあああああっ」
だからいったいナニがいいたいんだよこの男はもう。
でみんなも察する通りやがて沖山はドロドロに泥酔して足腰たたなくなっちぁったんだ。
おまけにゲロゲロやりだして。
とてもひとりで帰れる状態じぁなくなっちぁったんだよいるだろこういうやつ。
「そういうわけでおれはこのヨッパライをこいつのアパートまで連れてかなきぁなんないから。悪いんだけど今夜は白都さんを送れないや。ごめんね」
「ううん、そんなのはいいんだけど、くりたくんひとりで大丈夫?」
「平気だよ」
「でも沖山くんにたくさんのましちぁったのあたしだし。あたしも沖山くん送るの手伝う」
む♂? これは♂? とかおれは思ったね。
「けど遅くなっちぁうよ。家のひと怒んない?」
「怒るけど。へいき」
「そりぁ白都さんがきてくれたほうが助かるけど、いいのかなあ、助かるけど、いいのかなあ、きてくれたほうがすごく助かるんだけど」
「うん。あたしもいく」
「ほんとにいいの?」
「うん。いいよ」
お待たせしました。というわけでここに至ってやっとその晩は盛りあがりをみせてきたんだね。
沖山のボロアパートってのはむかしのフジテレビの裏のほうにあってさ。
そこまで送ろうってことになったんだけど。
カブキチョーからなら二十分も歩けば着くはずなんだけど、なにしろ三人四脚みたいなもんだし、ローニンのヨッパライなんて当然オウトンはみむきもしてくんないし、おまけに沖山ときたらばしぉっちうしぁがみこんでゲロゲロやるしでさ。
ちっとも進まないんだよ。
それでも白都さんとおれは内臓を吹き飛ばされた仲間の兵士を助けるしたっぱの兵隊みたいに、一所懸命沖山をかかえてヨレヨレと靖国通りを歩いたんだ。
「くくくくくくりたあああおおオレぁもおダメろおおおぅえっゲロゲロゲロゲロ、ぜーぜー」
「大丈夫かよ、しっかりしろオラ」
「ききききき救救救救急車をよんでくれええええ。死死死死死死死ぬ。死ぬうううううう」
死ね。
お願いだから死んでくれ。
おれは心の中では念じてたんだけど。
「しっかりしろよ。もうすぐ着くぞほら歩け。せえの、イチニ、イチニ」
「くくくくくくりたあああ。おまえって、いい奴らなあ。ごめんなあああくりたはあああ、ぜーぜー、ごめんなああ白都さあああああん」
「いいんだって。そら、イチニ、イチニ」
「がんばって、沖山くん」
「ゆゆゆゆるしてくれへええええゲロゲロゲロ」
三人とも悪い汗とゲロにまみれてやっと沖山の部屋に着いたのが十一時半頃で。
沖山のゲロふいて、着替えさせて、フトンをしいて眠らせた時にはもう十二時過ぎてたんだ。
「じぁあたし帰るね」
「電車あるかなあ」
「まだあると思う」
「あるかなあ」
「たぶん」
「泊まっていきなよ」
「ゑ」
「泊まっていきなよ」
「‥‥‥‥‥‥」
「泊まっていきなよ」
「でも」
「泊まっていきなよ」
「う、ん」
「泊まっていきなよ」
「どしおっかなあ」
これがオーム返しの技である。
そういうわけで四畳半にはフトンが二組、ひとつにはグロツキー沖山が、もうひとつには白都さんとおれが枕を並べて横になったんだ。
ぜったいになにもしないからって約束でさ。
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