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深夜、チバ市内、総武電車ぞいのまっすぐなみちをわしはひとりてくてくとチバ方面にむかってあるいておった。むこうからクルマがくるのがみえた。せまい道である。わしは道バタによけてクルマがすぎるのをまった。ところが、なにをおもったのか、クルマはわしのところでとまり、運転者はするすると窓をおろした。なにごとかとなかをのぞけば、運転者もわしをみつめている。しばしみつめあったあと、運転者は、
「志村けん」
と、それだけをいい、クルマをブルルーっと発進させた。おもわずわしはうしろをふりかえり、それからあたりをみまわしたが、わしのほかにはだれもいない。どうかんがえても、運転者は、わしにむかってそういったのだ。わけがわからず、はしりさるクルマを呆然とながめていると、しばらくいったところで運転者は再度クルマをとめ、窓から顔をだして、
「シムラちゃーん」
とダメ押しとばかりにさけび、それで気がすんだのか、夜の道のかなたにきえた。
とりのこされたわしは、それでイッキに不条理の世界にたたきこまれることにあいなった。いったいぜんたい、なんだって深夜の運転手に志村よばわりされねばならんのだ。いちおうかんがえられる可能性として、
・運転者はわしを志村けんとみまちがえた。
・じつは、わしのうしろに志村けんがかくれていた。
・なにをかくそう、わしは志村けんだった。アイ〜ン。
などがあげられるが、どれもかんがえられない。わしは志村けんではないし、志村けんににているといわれたこともない。べつににていてもいいんだけど、いまのところ、にてると指摘されたことはない。してみると、あれはいったいなんだったのだ。いくらかんがえても合点がいかん。どうもチバというのは謎がおおい土地である。
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