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大学のとき、オパスっていうバンドのサークルにいたのね。そんで、大学をやめて二年ばかりした春の夜に、そのころの仲間とオパスの部室でこっそりと再会をはたしたことがあったわけ。夜中に。そのころおれたちはみんなすでにオパスとはスッパリと縁がきれてたんだけど、夜中にこっそりと大学にしのびこんで、かってにオパスの部室をつかわしてもらって、そこで宴会をやらかしたんだけどね。オパスの部室っていうのは通称「山小屋裏」ってよばれてたボロボロの木造の建物の一室で、大学構内のすみっこだったからだれかにみとがめられるっていう危険性はまずなかったし、おまけにおれたちっていうのはかつて女子高の体育館の更衣室にしのびこんでボヤをだしたりとかしててさ、そういう隠密行動とかにはなれてたのね。そうやって七人か八人の仲間があつまって旧交をあたためてたんだけど、いいかげん酔いもまわってきたところで、ヤスダっていうやつがなにを悪酔いしたのか「フリップせんせい、フリップせんせい〜〜〜」っつってなきだしちゃったのね。とつぜん。なんの脈絡もなく。そのフリップ先生つうのはなんなんだとおれたちはおもったんだけど、ヤスダはだれのなぐさめにも耳をかさず、しばらくひとりサメザメと「フリップせんせい〜〜」ってないてたのね。そしたら、それまでわりとおとなしく飲酒をしてたサメジマっつうやつがオモムロにスクっとかたちあがって「フリップ先生っ」ってさけんで、かたわらにあったギターをがしっとワシヅカミにして、ヘッドのところをグサ〜っとアンプにつきさしちゃったの。ほら、音楽サークルの部室だから、せまい室内には楽器とか機材とかが山積みになってるわけ。そのうちのアンプのひとつに、ギターをつきさしちゃったの。それはあまりにイキナリの出来事だったので、みんなはアッケにとられるばかりで、ボ〜ゼンとサメジマをながめてたんだけど、そしたらこんどはサメジマはかたわらのベースを手にとって、キーボードだのハイハットだのボーカルアンプだの、そこらへんにならんでる機材をてあたりしだいに、かたっぱしからぶったたいて破壊しだしちゃったのね。すごい音たてて。しかも破壊をつづけながら「フリップ先生っ、フリップ先生えええっ」とかわめいてるの。サメジマっていうのは、ふだんはおとなしいんだけど、とつぜんそんなふうになっちゃうという、なるたけおともだちになりたくない、そういうタイプのやつなのね。そんで、おれたちもさいしょはただ呆然としてるばかりで、サメジマをながめてるだけだったんだけど、そのうちだんだんおかしくなってきちゃってね、みんなして「フリップ先生っ、フリップ先生っ」ってくちぐちにわめきながら、部室にある、ありとあらゆる機材を破壊しちゃったの。なにしろ部室だから、楽器とか機材とかは大量にあったから、壊しでというめんでは、かなりのものがありましたね。被害総額は三百万くらいになるんじゃないの。しらないけど。そんで、あらかた破壊しつくすと、まだ気がすまないだれかが「こんどはサパンヌだっっ」っていいだして「そうだサパンヌだっ」ってみんなが賛同して「オノレ、サパンヌウウウ」とかなんとかわめきながらオモテにはしりでたのね。なにしろみんなトランス状態になっちゃってるから、なんかわめいてるんだけど、基本的に言語をはっしている人間はひとりもいませんでした。そんで、サパンヌっていうのはビジュツのサークルで、かつてのおれたちのライバルだったのね。なぜかしらないけどおたがいに目のカタキにしていて、血ミドロの抗争をくりひろげてたところだったのね。その部室っていうのがオパスの部室のちかくにあったわけ。窓をたたきわってサパンヌの部室に乱入すると、トルソーっていうの、あの腕とかのないしろい胸像、あれが月のうすらあかりにならんでるのね。だれかがそのひとつをユビさして「フリップせんせいっ」ってさけぶと、あきれたことにギター持参できてるやつがいて、そいつが「フリ〜〜〜プ、せんっせえええっ」ってわめきながらギターふりまわして胸像ぶっこわして、するとまわりをとりかこんでるやつらが「フリップ先生っ」「フリップ先生っ」って拍手して、こわしたやつが「フリップせんせいい」なんてガッツポーズしたりして、そうやってひとつずつじゅんばんに像をタタっこわしてって、そんでこわすべきものがなくなると「フリップ先生の怒りをおもいしったかっ」とか捨てゼリフをのこしてとっとと逃げてきちゃったんだけど、ええと、これってもう時効ですか? しりませんが、だれかが宴会のさいちゅうに「フリップ先生」ってつぶやきだしたときは要注意。
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