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「栗田、おい栗田」
「‥‥?」
「おれだよおれ」
「‥‥??」
「おれだってば」
「うげ」
「む? なにじろじろみてんだ」
「おまえ、そのアタマはいったい」
「ああこれか。いいだろ」
「この色はいったい」
「うまいもんだろ、じぶんでやったんだよ」
「だけどおまえ、眉毛はどうした」
「なんかさあ、髪の毛金色にしたら眉毛がくろいのってヘンなんだよな。だから眉毛もそろえた」
「えっ、眉毛あるのっ」
「あるよほら」
「みえねえよ」
「よくみろよほら」
「いいよそんなのみたくねえよ」
「はは。じぁ、いまからおれが暮らしてるマンションに案内するから」
「マンション?」
「うん。マンション」
「ちぉっとまてよ、おまえいままで雲隠れしてたあいだどんな生活してたんだ」
「だからそういうことはゆっくり休んでから話してやるから、かねもうけの話もそれからってことで、とりあえずおれについてこいよ」
「う、うむ」
「はるばるすまなかったな。でも電車はすいてたろ?」
「のぼりだからな。がらがらだったよ」
「いやほんとよくきてくれた」
「なあ」
「うん?」
「なんか、すれちがうひとたち、みんなおまえのことみてるような気がしないか」
「そうかな」
「なんかおまえ、国籍不明の人買いってかんじだぞ」
「そうかなあ」
「よけいなお世話かもしんないけどさ、せめて眉毛はなんとかしたほうがいいんじぁないか」
「そうかあ? これ、へんか?」
「ちぉっとさ、ブキミっつうか、コッケイっつうか」
「そうかなあ。んじぁあとでマジックで描いとくよ。‥‥さあついたぜ、ここの4階なんだ」
「え」
「なにびびってんだよ」
「おまえこれって家賃はいくらだよ」
「じうごまん」
「じ‥‥って、おまえどっからそんなかねが」
「んふふ。さあここだ。あがってくれ」
「おじぁまします‥‥む?」
「どした」
「むむ?」
「どしたんだよ」
「なるほどね」
「なにが」
「とぼけるなよ。このクツ、このにおい。女の部屋だろ、ここ」
「まあね」
「どんな女なんだよ」
「ルルちぁんていうんだけどね、ま、ごくふつうの女子大生さ」
「どうやってめっけたの」
「ほらおまえにかね借りてでかけたろ、歌舞伎町に、あの晩にしりあって仲よくなってさ。いらいずっとおれはここでルルちぁんと暮らしてんだ」
「はじめてしりあったその日から?」
「まあね」
「ふうん。今日はそのルルちぁんはどうしたの」
「暮れだから田舎にかえった」
「おまえだけ残して?」
「うん」
「田舎ってどこさ」
「む‥‥えっと、あー、どこだったかな」
「なんだおまえ、そんなこともしらないのかよ」
「べつにいいだろ」
「だけどずいぶん金持ちのムスメなんだな」
「なんで?」
「だって、十五万なんだろ、ここの家賃」
「あ、うん、まあね、金持ち金持ち」
「‥おまえなんかおかしいぞ。いったいそれってどんな女なんだよ」
「だからごくふつうの女子大生だって」
「あの台所の酒の空き瓶の山はなんだ?」
「え」
「ごくふつうの女子大生があんな飲むか、ふつう」
「お、おれが飲んだんだ」
「たかだか半月ばかりのあいだにか? にいしいろおはあ、数え切れないけど、百本はあるぞおい」
「‥‥‥」
「正直にいってみろよ。怒んないから」
「ばかやろ、なんでおれがおまえに怒らなきぁなんないんだよ。それどころかおれに感謝するべきなんだぞ。かねもうけの話にまぜてやるんだから」
「それそれ。だいたいそれはなんなんだ?」
「うん。あのさ、ルルちぁんのヒミツにかかわることだから、あんまし詳しくは教えらんないんだけどね。ともかくルルちぁんにつきまとう悪いオヤジがいるとおもってくれ」
「オヤジ?」
「うん。そのオヤジはいちおう家庭つうもんがあるくせして、ルルちぁんにつきまとって、彼女にしつこくせまってくるわけだ」
「ふむ」
「彼女はそいつをなんとかしたいとおもってる」
「そんで?」
「そんでおれがそのオヤジと談判して、ルルちぁんから手を引かせようってわけだ」
「ふうむ」
「だけどただ手を引かせるってのもつまんないから、なんつうか、慰謝料っていうか、手切れ金てやつをだな」
「ふむ」
「まきあげてやろうとおもってんだけど、やっぱしおれひとりじぁちぉとこわいしさ」
「で、おれに手伝えと」
「おまえだったらガラもわるいし、ぴったりだなあとおもってさ」
「わるくねえよっ」
「たのむよ」
「ちぉと待てよ。どうもよくわかんないぞ。だいたいそのオヤジとルルちぁんてのはどういう関係なんだ」
「どういうもなにも、ルルちぁんはそいつを嫌ってて、そいつがルルちぁんにつきまとってる、それだけの関係だ」
「だけどふつう手切れ金つうのは、セックス関係がある場合だろが」
「‥‥‥」
「おまえあれじぁないの、そのオヤジつうのは彼女のパパとか、そういうやつなんじぁないの。週に二回くらいくるパパ」
「‥ちがうよ」
「てことはあれか。このマンションの家賃もそいつが払ってるわけか。なるほど」
「ちがうってんだろこのやろう。ルルちぁんはそのオヤジから一銭ももらってねえよ。ここの家賃だって彼女がぜんぶ払ってんだよ」
「実家の仕送りでか? 15万も? おまけにそいつはまいんち酒ばかり飲んでんのか?」
「ごちぁごちぁうるせえんだよこのやろう。ったいおまえはやるのかやらねえのか、どっちなんだよ。かねだかね、どうするんだよ」
「やるよ。だけどそのまえに、きちんと説明してくれたっていいだろ」
「さっきいったことで全部だよ。つけくわえることなんてなんにもない」
「納得できるかよ」
「かねがほしけりぁ、だまっておれを手伝えよ。たのむよ。人助けだとおもってさ」
「しぉうがねえなあ。わかったよ、やるよ」
「そうそう。そうこなくちぁね」
「んで、おれはなにをすればいいの?」
「かんたんだよ。おれがそのオヤジと話をしてるあいだ、おっかない顔でにらんでくれてりぁいい。なるべくガラわるい態度でたのむぞ。呪いと気ハクをこめてさ、ぎいいいっとね、ぎいいいいっと」
「こんなかんじ? ぎいいいい」
「そうそう。いい、いい。そんなふうに威嚇してるだけでいいから、話はぜんぶおれがつけるから。じぁそういうわけで、でかけるぞ」
「どこに」
「駅前の喫茶店によびだしてあるんだ。いまから話つけにいくんだよ」
「なにい? いまからあ?」
「うん。ほんとはさ、ルルちぁんがいないあいだにおれひとりで始末をつけといてやるつもりだったんだけどさ。いざってときになって、だんだんおれもびびってきちぁってさ。そんでおまえんとこに電話したってわけなんだ」
「‥‥‥」
「ん? なんか心配そうだな。へいきだよ。おれたちが組めばこわいもんなしだって」
「そうかなあ」
「へいきへいき。ほれ、ぎいはどうした、ぎいは」
「ん?」
「ぎいだって、ぎい」
「ぎいいいい」
「うんうん。いいなあそのかんじ」
「ぎいいいい」
「うんうん。にんまり(^^)」
♂
いまキーボードをはたきながら気がついた。
かんがえてみればこれは犯罪だった。
♂
「ちくしぉう」
「ちくしぉう」
「なさけねえよなあ」
「みじめだよなあ」
「カミもホトケもないものか」
「こんなばかげたことがあってもいいのかよ」
「ったくなんでおれたちがこんなひどい仕打ちを」
「おれたち、なんかわるいことしたっけ」
「みじめだよなあ」
「なさけねえよなあ」
「ちくしぉう。ビールでも飲もうぜ」
「だめだよ」
「なんで」
「医者にいわれたろ、酒はだめだって」
「へいきだよ、ビールの一杯や二杯。かねだせよ、おれが買ってきてやるよ」
「やめとこうよ、医者のいいつけを守って、はやく病気をなおそうよ。かねだってもう残りすくないし」
「え? もうないの? あんなにあったのに」
「もうあと三万しかないよ。当然だろ、このひとつきのあいださんざんつかったんだから。今日の診察料だって、ふたりで三万もかかったんだぞ」
「なにいっ。あの程度でそんなボルのかよ」
「しかたないよ、保険つかわなかったし」
「たく、ついてねえなあ」
「ところでおまえいいのか」
「もうひとつきも田舎にかえってないだろ。家のひと、心配してないのか」
「だいじぉぶだいじぉぶ。このアパートで受験勉強のさいごのおいこみにはげんでるとおもってるよきっと」
「まさか妙な病気でのたうちまわってるとはおもっちぁいないよな」
「ははは‥‥うっ」
「どうした?」
「うずいた」
「‥‥」
「‥‥」
「みじめだよなあ」
「‥‥」
「‥‥」
「なあ」
「うん?」
「そろそろ話してもいいんじぁないか」
「なにを」
「あのあとどうしたのかさ」
「あのあとおまえはかねを手にいれたわけだろ。それなのにどうして、ルルちぁんにふられちぁったわけ」
「ふ、ふられたなんてどうしてわかるんだよ」
「おまえのようすみてりぁわかるよ。たしかにおまえは以前から手あたりしだいだったけど、それにしたってこのひとつきってのは尋常じぁなかったぞ。キキせまるものがあった」
「おまえにおれのことがいえるかっての」
「正直に話せよ。ルルちぁんにふられたんだろ? それでやけくそで毎晩ディスコにくりだしてたんだろ? はらいせに毎晩ナンパしてたんだろ?」
「よけいなお世話だ。おまえだっておもしろがってたくせしやがって」
「そらおまえおれにしてみりぁ棚からボタモチ」
「それでいいじぁん。おまえもおれもゲップがでるほどたのしかった。そしていま報いをうけてる」
「おまえはそれでいいのかもしんないけど、おれはよくない。納得のいかないことだらけでどうもクソのデがよくない」
「きたねえな」
「すっきりさせてくれよ。ふられちぁったんだろ?」
「ふん。まあね」
「そこんとこがよくわかんないんだよな」
「なにが」
「だってさ、おまえがもってきたあの五十万てのは、あのオヤジが彼女に払った手切れ金なんだろ。てことは、あのオヤジは彼女とはすっぱり切れて、もうおまえたちをじゃまするものはなにもなくなったわけだ。それなのにどうしておまえはあのマンションから追い出されちぁったの? そこんとこがどうもよくわかんないんだよ」
「うむ」
「話せよ、もうおれたちは名実ともに兄弟以上の仲じぁないか」
「話してもいいんだけどさ」
「いいんだけどなんだ」
「説明するのがめんどくさい」
「ながいのか」
「ちぁんと話せばおそろしくながい」
「いいよ。聞くよ。どうせヒマだし。この話を読んでるインタ〜ネットのひとらだってたぶんヒマなんだよ」
「なんだそのインタ〜なんたらってのは」
「いいから話せよ」
「ほんとにながいぞ」
「へいきへいき」
「‥‥どっから話せばいいのかな」
「はじめから」
「てことは、中学のときからだぞ」
「そっ、そんな昔からなのか」
「はしぉるか」
「いや、いいよ、やってくれ」
「うむ。じぁ話す。こほん」
「パチパチパチ」
♂
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