とり  卓也の食卓

 個人のホームページがその作者の興味のありかをしめしているとするなら、おれの興味は女の子と食事と睡眠である。そこにパチスロと志村けんとしょうぎと長屋君とユカイ君がすこしまじる。そういうことになる。グラフにするとこうだ。

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 いったいおれは、こんなことでいいんだろうか? いったいきみは、こういうじんせいをどうおもうか? どうおもわれようと、そうなんだからしょうがない。そういうわけで、すまん、きょうもクイモノの話。
 卓也くんはしばらくまえに結婚したばかりで、かわいいヨメさんとうれしはずかし新婚生活のまっただなか、ハタからみてるぶんにはうらやましくってしかたがないところである。ところがどうも、さいきん卓也くんのかおいろがすぐれない。ナヤミがあるみたいである。あるいはなにか、わるい病気にかかってるみたいである。卓也くんはたいせつな後輩なので、これはほうってはおけない。そんなわけできょうおれは、卓也くんと飲酒をして、さしでがましくそのあたりのことをたずねた。すると卓也は、ここぞとばかりにうちあけるのだった。
「たしかにヘンだなあとはちょっとおもってたんすよ。あいつと結婚するまえから」
「なにがヘンなの?」
「あまいものが異常にすきなんすよ。デートとかして、食事しにレストランとかいくときも、ケーキとか、そういうデザートしかくわないんすよ。せいぜいサラダとかくうくらいで、めしとかぜんぜんくわないやつだったんすよ」
「でも、いっしょに食事してるときだけだろ? ふだん家とかではめしくってたんじゃないの?」
「おれもそうおもってたんすけど、それがちがうんすよ。ほんっとにケーキしかくわないんすよ。フランスの女王様みたいに」
「フランスには女王様はいない。王様もいない。二百年まえに革命があったんだ」
「そうなんすか? でもとにかく、ケーキしかくわないやつだったんすよ。結婚してはじめてそれがわかったんす」
「うそだろう? だってそれじゃ生きていけないだろ?」
「でも、げんに生きてる」
「ううむ」
「そんで、いちおう家で夕飯とかつくってくれるんすけど、さいきんはケーキしかないんす。それ焼いてまってるんす」
「なに?」
「チョコレートケーキとかいちごのタルトとか、いろいろですけど、ばかでかいケーキが一個あるだけで、夕飯はそれだけなんすよ」
「むぐ」
「家にかえると、『おかえりなさあい、きょうはモンブランよ、それともおふろさきにするう?』とかにっこりほほえまれちゃうんすよ」
「むぐぐ」
「だいたい、さいしょはそれなりにめしを炊いてくれてたんすよ。あいつはなんだかんだいってくわなかったんすけど。でも、さいしょにチーズケーキだけっていう晩めしのときがあって、そのときに文句いわないで、それどころか『これなら毎晩でもくいたいよ』っていっちゃったんで、それがまずかったみたいなんす。でも、でも、まさか本気にするとはおもわないじゃないすか。だいたい、ほんとにケーキだけくって生きてる人間がいるなんておもわないじゃないすか」
「ぶぶぶっ」
「もうおれ、一週間も、晩めしはケーキしかくってないんす。家にかえると、ぷうんとケーキのにおいがたちこめてて、なんかそのにおいをかいだだけでもう、こみあげてきちゃって。しょっぱいものがくいたいす。しょっぱいじゃなくても、からいでもすっぱいでもにがいでもなんでもいいんすけど、とにかく甘い以外の夕飯がくいたいす」
「ぶっ。ぶっはっはっはっはっはっはっ」
「く、くりたさん、なっ、なんでわらうんすか、こんなにひとがなやんでるのに」
「すっ、すまんっ、はっはっはっはっはっはっ」
「さっきからようすがヘンだったのは、もしかして、わらいをこらえてたんすか?」
「ごっ、ごめん、はっっはっはっはっはっ、ひいひい」
「ひっ、ひどいっすよ、くりたさんっ。こんなにひとが悩んでるのに」
「はっはっはっはっはっはっ」
「もう、おれ、かえります。あんまりです。まえからあんまりだとはおもってましたけど、ここまでひどいひとだとはおもいませんでした」
「っはっっはっはっっっはっはっっはっはっはっっは」
 というわけで、こんなに親身に相談にのってやった今夜のおれである。
 しかし、つくづくおもうんだけど、ナヤミというのはひとそれぞれ、いろいろある。そうして、そのほとんどは、ハタからみると、どこがなやみなのかよくわからない。でもやっぱりナヤミはナヤミなので、みなさんあんまり盛大にわらわないようにしてやりましょう。それから、せっかくわらわせてもらったんだから、すこしはよけいなお世話をしてやるのが礼儀というものかとかんがえます。こんなふうに。
「なあ卓也。とにかく、くいものの文句はぜったいにいうな。それはそういうことになっている。ぜったいにするな。じゃないと生き埋めにされるぞ。気にいらないならくうな。そのかわり、くいたいものをじぶんでこさえてくえ。でもそれはさいごの手段だぞ。ヨメさんがすきなら、死んだ気でくえ。ショウユかけてでもくえ。そして糖尿で死ね。それが男というものだ」

[11,11,1999]