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喫茶店でコーヒーをのんでいると、こどものころに第2次世界大戦を経験なさったのではないかとおぼしきおとしごろのご婦人が入店してきて、わたしのとなりのテーブル席に腰をおろされました。ご婦人はウェイトレスに、「ホットケーキとレモンティー」と注文をなさいました。しばらくすると、あたためられたティーカップとホットケーキにかけるための蜜、この二点がテーブルにはこばれてきました。ご婦人はとまどったごようすでした。なにをとまどったのかながめていると、「ちょっと。これってすくないわよ。しかもぬるいし」とご婦人はウェイトレスに声をかけました。さっするところご婦人は、ホットケーキにかけるための蜜をレモンティーとかんちがいなすっておられるごようすでした。けれどもその声はウェイトレスにはとどかず、あっけなく無視されてしまいました。ご婦人はこまったごようすでした。
そのときわたしはちょうどコーヒーをやりおえたところだったのですが、ご婦人のティーカップをみていると、なんだかむしょうにレモンティーがのみたくなってきてしまいました。コーヒーではなくレモンティーにしておけばよかったという後悔がむくむくとわきあがってきてしまいました。それでおもわずそのように声にだしてしまいました。はっきりと。
「ああ、おれもレモンティーにすればよかったなあ」
ご婦人は、はっとしてわたしのほうをみました。いっしゅん視線があって、わたしはあわててめをそらしたのですが、そらしたあともよこめでそうっと観察していると、ご婦人はホットケーキのための蜜をばティーカップにどろどろどろどろ〜りとそそぎはじめました。ややとくいげなごようすであったと記憶します。その図を確認するやいなやわたしはじぶんの伝票をひったくり、とっととレジスターへむかい、勘定をすませたのですが、そのさい、どうにもこみあげてくるわらいをこらえるのにハナハダなんじゅうしました。
ザンゲします。もちろんあのときの「紅茶をのみたかった」というわたしの言葉にいつわりはございませんが、しかし、それをくちにだしてしまうのは、あまりにはしたのうございました。反省しております。ごせんぞさまもうしわけありませんでした。
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