とり  ある風のつよかった冬の日の話

 数年前の冬の、つよい風のふいた日の晩のこと。おれは美和ちゃんと話をしていた。美和ちゃんはそのとき、小学5年生だった。その日の午後、彼女は学校で「フシギなもの」を目撃してしまったとかで、興奮している。目をランランと輝かせながら「フシギなもの」について、おれに教えてくれた。
「聞いて聞いて聞いてあのね、きょうね、ヘンなの見ちゃったの。」
「なにを見たの?」
「がっこうの庭の木にね、おにんぎょうがひっかかっていたの」
「おにんぎょう?」
「それがね、へんなおにんぎょうなの。すっごくすっごく大きいおにんぎょうなの」
「なんでそんなものが木の枝にあったの?」
「きょうは風がつよかったから、とばされて来たんじゃないかなあ。女のひとのおにんぎょうなの。はじめ見たときね、おにんぎょうに見えなくて、ほんとうのにんげんが木にひっかかってるみたいで、ともだちとあせっちゃった」
「そんなに人間に似ていたの?」
「うん。そっくりなの」
「それでその人形はどうなったの?」
「木のまわりにいっぱいみんなが集まってきて、さわいでたら、ツカダ先生がきて、木にのぼって取っちゃったの。すごくうえのほうまでのぼってったんだよ。みててドキドキしちゃった。ツカダ先生が人形をもって降りてきたとき、よくみたんだけどね、なんだかヘンな人形なの。気もちわるいの」
「気もちわるい?」
「うん。ヘンなの。ぜんぜんかわいくないんだよ」
「‥‥あのさあ、えーと、その人形ってさあ、ハダカじゃなかった?」
「うん、ハダカだった」
「‥‥」
「どうしたの?」
「‥‥えーと、もしかしてその人形って、口を開けてなかった? こんなふうに」
「あっ、開けてた、開けてたよ、どうしてわかるのっ」
「む、まあ、なんとなくね」
「ねえ、どうして知ってるの、どうして知ってるの、あれってなんなの」
「なんなのかなあ、おれもよく知らないや」
「うそだね、ほんとは知ってるんだね、あれってなあに、教えてよう」
「ほんとに知らないんだってば(なんでこんなことばかり鋭いんだこいつわ)」
「うそつきい、うそつきい、ケチ、ケチ、ケチいいいい、おーしーえーてーよおお」(以後、えんえんとむずかる美和ちゃん)
 というわけで、あの風の日に人形を紛失なすった方、これをごらんでしたら、ご連絡を‥‥つうか、とばすなそんなの。

[25,11,1999]